クラウドファンディングにおいて、初期目標の達成は一つの成功の証ともいえます。クラウドファンディングの目標達成率は平均すると30%程度であるため、初期目標の達成は一つの壁と言っても過言ではありません。
しかし、初期目標に到達したプロジェクトはさらなる挑戦を続けることができます。それが「ストレッチゴール」です。初期目標を達成した後も支援者の興味を引き付け、プロジェクトをさらに大きく育てる可能性を秘めたこの戦略。ただし、その設定や運用には注意が必要です。
この記事では、クラウドファンディング初心者でも理解できるように、ストレッチゴールの基本からそのメリット・デメリット、効果的な設定方法、そして成功事例までを詳しく解説します。
クラウドファンディングにおけるストレッチゴールの基本と重要性
まずは、ビジネスの場におけるストレッチゴールの基本概念から、クラウドファンディングにおけるストレッチゴールの設定意義について解説します。
ストレッチゴールとは
プロジェクトチームが既に達成した初期目標を超えて、さらに高い目標を設定する挑戦的な追加目標、それが「ストレッチゴール」です。ストレッチゴールを設定することで、個人や組織の限界を広げ、さらなる成長を促進することができます。
近年、従業員の成長を促す効果が期待できるとして、ビジネスシーンでの活用も広まっています。
クラファンでストレッチゴールを設定する意義
クラウドファンディングにおけるストレッチゴールは、初期目標を達成した後に設定される追加目標のことを指します。ストレッチゴールを設定することで、プロジェクトの規模をより拡大し、支援者に新たな価値を提供することができます。
例えば、当初目標金額100万円で始まったゲーム開発プロジェクトでは、ストレッチゴールを150万円に設定し、追加のキャラクターやシナリオを提供するなどの施策を打つことができます。他の分野でもストレッチゴールは用いられており、音楽作品のレコーディング素材のグレードアップや、舞台公演の回数を増やすなどの例があります。
効果的なストレッチゴールの設定方法
ここでは、プロジェクトの各段階での考え方、ストレッチゴールを決める基準、そして成功率を高める戦略について詳しく解説します。
プロジェクトの段階ごとの考え方
プロジェクトを成功に導くには、各段階に応じた適切な戦略が必要です。クラウドファンディングの各段階での重要なポイントを解説します。
プロジェクト開始前から計画の中にストレッチゴールを組み込んでおくことが重要です。以下のポイントを元に、初期目標、ストレッチゴール、リターン内容を検討しましょう。
- プロジェクト全体の目標総額を設定する
- 初期段階で達成可能な現実的な目標ラインを見極める
- ストレッチゴール達成時に提供する付加価値を検討する
初期目標を設定してプロジェクトを開始したら、迅速な目標達成を目指しましょう。
- SNSなどを活用して積極的に情報を拡散する
- 早期の目標達成を目指し、プロジェクトに勢いを作る
- 目標達成のニュースを広めることで、未支援者にもプロジェクトの盛り上がりを認知してもらう
初期目標の早期達成は、プロジェクトの信頼性を高め、さらなる支援を呼び込む効果があります。
初期目標達成後は、速やかにストレッチゴールを設定し、プロジェクトの勢いを維持します。
- 初期目標達成の熱が冷めない間に、新たな目標(ストレッチゴール)を設定する
- 新しいリターンの追加や既存リターンの増枠を行い、支援者の興味を引き付ける
- 定期的に進捗状況を更新し、支援者のモチベーションを高く保つ
この段階では、支援者との継続的なコミュニケーションが重要です。プロジェクトの進展を共有することで、支援者の参加意識を高めることができます。
ストレッチゴールを決める基準
効果的なストレッチゴールを設定するには、以下の基準を考慮することが重要です。
金額目標ベース
初期目標額を基準に、段階的に金額を設定します。初期目標金額の20-30%増しを目安に設定します。
例えば、初期目標が100万円の場合、ストレッチゴール1を150万円、ストレッチゴール2を200万円というように設定します。このアプローチは、具体的な数字で進捗を示せるため、支援者にとってわかりやすいという利点があります。
人数目標ベース
支援者数に応じて、追加のゴールを設定する方法です。
例えば、100人達成で特典Aを追加、200人達成で特典Bを追加というように設定します。このアプローチは、コミュニティの拡大を重視するプロジェクトに適しています。
ストレッチゴールの成功率を高める戦略
ストレッチゴールを成功させるには、以下の戦略を効果的に活用しましょう。
- 現実的な目標設定
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初期目標の20-30%増しを目安に設定し、段階的に引き上げていくことをお勧めします。達成可能な目標を設定することで、支援者に達成感を味わってもらいながら、次の目標への期待感も維持できます。
- 明確な説明
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追加支援金の使途を丁寧に説明し、プロジェクトの価値向上につながることを強調します。支援者に明確な目的を示すことで、さらなる支援を促すことができます。
- 魅力的・限定的なリターンの設計
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支援金額に応じて異なるリターンを用意し、ストレッチゴール達成時には特別なリターンを検討します。数量限定や期間限定の特典を設けることで支援者の満足度を高め、さらなる支援を促すことができます。
- ターゲットに合わせた設定
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プロジェクトの性質や支援者層を十分に理解し、適切なゴールと魅力的な特典を設定します。ターゲットのニーズや興味に合致したゴール設定が、プロジェクトの成功につながります。
支援者の共感を生む魅力的なプロジェクト設計の方法は、こちらの記事で解説しています。
- トップ画像・メイン画像の変更
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ストレッチゴールの達成状況を視覚的に表現し、目標達成が近づくほど頻繁に画像を更新します。視覚的な進捗表示は、支援者の達成感とモチベーションを高める効果があります。
- プロジェクト本文での呼びかけ
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本文冒頭にネクストゴールの説明を追記し、ストレッチゴール達成による具体的なメリットを明記します。プロジェクトページを訪れた人に、すぐにストレッチゴールの情報が伝わるようにしましょう。
- 支援者とのコミュニケーション
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定期的な進捗報告や透明性の高い運営を心がけましょう。支援者との信頼関係を築くことで、長期的なサポートを得られる可能性が高まります。
- SNS・メールマガジンでの呼びかけ
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定期的にストレッチゴールの進捗を投稿し、支援者の声や期待を共有してコミュニティ感を醸成します。SNSを活用することで、プロジェクトの認知度を高め、新たな支援者を獲得できる可能性が高まります。
クラウドファンディングの魅力を戦略的に拡散する宣伝方法については、こちらの記事で解説しています。
プロジェクトページでのストレッチゴール設定方法
ストレッチゴールを決める基準および戦略をもとに設計したストレッチゴールを、プロジェクトページに反映させましょう。
国内の主要なクラウドファンディングサイト(Makuake、CAMPFIRE、GREEN FUNDING)では、一般的に最初に設定した目標金額を変更することはできません。
しかし、プロジェクトページ内の文章や画像、活動レポートなどは変更可能であり、これらを編集してストレッチゴールにチャレンジしていることをアピールできます。
一方、READYFORではストレッチゴール(READYFORではネクストゴールと表記)の設定が可能です。ストレッチゴールを設定すると、「NEXT GOAL」として画面に表示されます。READYFOR公式
ストレッチゴールのメリット・デメリット
ストレッチゴールには、プロジェクトを成功に導く可能性を高めるメリットがある一方で、慎重に検討すべきデメリットも存在します。ここでは、ストレッチゴールを設定するメリットとデメリットについて詳しく解説します。
ストレッチゴールのメリット
支援者の関心を維持する
ストレッチゴールを設定することで、支援者に新たな目標達成への期待感が生まれ、プロジェクトへの関心を維持することができます。初期目標達成後も、次なる目標に向けて取り組んでいることが伝わることで、支援者からの継続的な支援を促すことができます。
プロジェクトの質を向上させる
ストレッチゴールで集めた資金を活用することで、プロジェクトの規模を拡大したり、追加機能や特典を提供したりすることができます。より多くの資金を集めることで、当初の計画では実現できなかった新たなアイデアを形にすることも可能になります。
支援者とのコミュニケーションを強化する
ストレッチゴールの進捗状況を定期的に報告することで、支援者とのコミュニケーションを強化することができます。プロジェクトの進捗状況を共有することで、支援者との信頼関係を築き、プロジェクトへの理解と協力を得ることができます。
更なる支援者(ファン)を獲得できる
ストレッチゴールの達成に向けた取り組みは、プロジェクトの注目度を高め、新たな支援者を引き付ける効果があります。既存の支援者が周囲に紹介する可能性も高まり、プロジェクトの認知度向上につながります。
本来の目標金額を達成しやすくなる
初めから大きな金額の資金を集めるよりも、段階的な目標設定により、最終的な目標を達成しやすくなります。小さな成功体験を積み重ねることで、支援者のモチベーションを高め、より大きな目標達成への道筋をつけることができます。
ストレッチゴールのデメリット
実現可能性とサポーターの信頼
ストレッチゴールを設定する際は、必ず実現可能性を確認しましょう。支援者との信頼関係を築くためにも、誠実な目標設定と透明性の高い運営が不可欠です。約束した内容を確実に実行できるよう、十分な準備と計画が必要です。
リソース管理の複雑化
ストレッチゴールの追加は、プロジェクト管理の複雑さを増加させる可能性があります。新たな目標や特典の追加により、時間、人員、資金の管理がより困難になる場合があります。適切なリソース配分と効率的なプロジェクト管理が求められます。
ストレッチゴールを活用した成功事例
実際に成功を収めたプロジェクトを参考にすることで、効果的なストレッチゴールの設定方法を学べます。国内外のクラウドファンディングで行われた事例を紹介します。
事例1:4億円の資金調達に成功したゲーム開発プロジェクト
Mighty No.9のクラウドファンディングは、ロックマンシリーズの生みの親である稲船敬二氏の新作アクションゲームとして、2013年にKickstarterで実施されました。
初期目標金額の90万ドルを開始から2日以内に達成し、最終的に67,226人の支援者から3,845,170ドルを集めました。
多彩なストレッチゴールを設定しており、ゲームの追加モード、キャラクター、ステージ、高画質版などが用意されていました。
プラットフォーム: Kickstarter
開始: 2013年8月31日
初期目標額: 900,000ドル
結果: 3,845,170ドル
ストレッチゴール:追加モード、キャラクター、ステージ
事例2:人気声優の歌声合成ソフト作成プロジェクト
『梵そよぎ』は、声優の梶裕貴さんの声をもとにした歌声合成ソフトです。梶さんの声優活動20周年を記念して立ち上げられたキャラクタープロジェクト「そよぎフラクタル」の一環として、クラウドファンディングキャンペーンが2024年4月よりCAMPFIREで行われました。
初期目標額の達成後、ストレッチゴールとしてCeVIO AI『梵そよぎ』トークボイスの製品化と『梵そよぎ』の3Dモデル作成が発表され、最終的に3400万円もの支援金が集まりました。
プラットフォーム:CAMPFIRE
開始:2024年04月11日
初期目標額:10,000,000円
結果:34,197,702円
ストレッチゴール:トークボイスの製品化、3Dモデル作成
事例3:松藤量平ベストアルバム制作プロジェクト
松藤量平ベストアルバムは、シンガーソングライター松藤量平の音楽活動20周年を記念して企画されたプロジェクトです。ファンからの要望に応える形で、これまでの代表曲や未発表曲を含むベストアルバムの制作を目指し、CAMPFIREでクラウドファンディングキャンペーンが2023年8月より実施されました。
ストレッチゴールは支援者数で設定しており、100人でサンキューポストカード、250人でMV+メイキング収録DVD、700人で渋谷公会堂での無料ライブが設定されました。
プラットフォーム: CAMPFIRE
開始: 2021年1月8日
初期目標額: 500,000円
結果: 9,438,900円
ストレッチゴール:サンキューポストカード、MV+メイキング収録DVD、無料ライブ
結論(Conclusion)
クラウドファンディングにおけるストレッチゴールは、初期目標達成後のプロジェクトに新たな可能性をもたらす強力なツールです。適切に設定・運用することで、支援者の関心を維持し、プロジェクトの質を向上させ、さらなる支援を集めることができます。
ストレッチゴールを成功させるには、現実的な目標設定、明確な説明、魅力的なリターンの設計が重要です。また、支援者とのコミュニケーションを強化し、プロジェクトの進捗を定期的に共有することで、信頼関係を築くことができます。
クラウドファンディング初心者の方々も、ストレッチゴールを活用することで、自身のプロジェクトをより魅力的に、より大きな成功へと導くことができるでしょう。ただし、クラウドファンディング初心者の人からすると、初期目標達成のプレッシャーやプロジェクト準備に多大な労力も伴うため、慎重な準備と実行が求められます。
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